2017年8月10日木曜日

翻訳作業に於ける数エーテルの働き

2017年6月19日〜7月31日にわたって、クラウドファンディング上でアルミン・J・フーゼマン著『音楽要素から構築された人間のからだ』の出版支援プロジェクトが行われた。目標金額の200%を上回るご支援を頂き、クラウドファンディングは終了した。ドイツで30年のロングセラーを誇る本書の日本語訳出版がいかに待ち望まれていたかが伺える。しかし本書が日本語訳として出版されるまでにどのような経緯があったのか? 訳者である吉田和彦氏の「訳者あとがき」より、本書の出版経緯について抜粋、ご紹介させて頂く。


本書との出会い

1993年、当時ミュンヘン・アントロポゾフィー協会で理事を務め、精神科学自由大学責任者の一人でもあった故エファ・ヴィーガント博士が、その翌年の定例ヨハネ祭を企画された際、その音楽責任者に私を指名し、作曲を依頼して下さった。24年前のことである。彼女の希望で、ドイツの詩人エリカ・ベルトゥレ(1921-2013)のモダンな詩にソプラノ・フルート・ピアノの為の曲を書いて初演されたのが翌1994年6月であった。ヨハネ祭は盛況で、ヴィーガント博士も大変満足して下さった。その行事の後、彼女が「あなたは音楽家で聴くことが大切だから文字は読まないだろうけど、でも、これは大切な本だから……」と言って私に手渡した本、それがこの『音楽要素から構成された人間のからだ』(当時第3版)であった。これが本書との私の出会いである。

当時から既にアルミン・フーゼマンは講演の為に定期的にミュンヘンを訪れていたので、一方的にではあるが彼のことはそれなりに知っていた。講演ばかりでなく、勿論、彫塑練習を体験する機会にも恵まれ、粘土を手に取り球を作っている光景が今でも浮かんで来る。催し物の参加者として受け身の立場でしかなかった彼との関係が、しかし少しずつ変容し出したのが、世紀が新しくなった頃からである。

スイス・ドルナッハのゲーテアヌム朗誦・音楽部門では以前から非公開の音楽家研修会が定期的に行われており私も長く参加しているが、そこにアルミン・フーゼマンがゲストとして招かれ、耳の構造と働きについてや、脳脊髄液と音楽との関係などについて、多くの興味深い話を聞かせて下さった。ミュンヘンとは違い、限られた参加者による研修会だったので、彼との関係が多少なりとも個人的になった。


本書の翻訳の話

その関係に、先ず小さな節目が生じたのが、今からちょうど12年前のことである。2005年7月、フィンランドのラーティーという街で5日間にわたる大きな国際声楽講習会が行われた時、アルミン・フーゼマンは毎午前中に行われる連続講演の講師として、そして私は毎午後に行われるクラスの講師として、その5日間を共に過ごすこととなった。その時のある食事の席で彼が何気なく本書の翻訳の話を持ちかけてきた。とはいえ彼も当時はまだ、表向きにはそう積極的ではなく、「イャ〜、誰か翻訳してくれる人、いないかな〜?」という感じではあったが、そのまなざしは明らかに私の答えを求めていた。

その5年後の2010年7月、同じフィンランドではあるが、今度はタンペレという街で同じように大きな国際講習会が行われた時、そこでもお互いに講師として出会った2人の関係に新たな節目が生じた。今から7年前のことである。宿泊先であった同じホテルのテラスで、暗くならぬ北欧の夜を楽しみながら、数人の講師が集まってワイワイと愉しんで夕食をしていたが、その席でアルミン・フーゼマンが、今度はかなり真剣な面持ちで翻訳の話を切り出してきた。「君にやって貰いたい! 出来ないか?」と。彼曰く、本はそれまでに他国語にも翻訳されているが、あまり良くは訳されていないようだ……とのこと。「君なら出来る!」その時の彼のエネルギーは5年前とはかなり違っていた。「まぁ、考えてみます」……とはっきりした返事は避けたものの、心の何処かに意志が芽生えたのは確かにこの時であった。しかし、大きな2つの問題があった。

ひとつは純粋に日本語の問題である。在独生活が長いので、ドイツ語では全てを理解しても、それがスラスラと日本語にはならないのである。2009年と2010年に、ドイツ人のお供をして日本での講演の通訳を務めた時に、それをイヤというほど体験した。そしてシュタイナーやアントロポゾフィーはおろか、私は日本語に翻訳されたドイツ語文献を読んだことが皆無に近い。それどころか、そもそも日本語は殆ど読まない生活をしている。従って、本書の翻訳文の中でも読みづらい箇所が必ずあるであろうことを、この場を借りて予めお詫びするとともに、そうした箇所に出くわされた読者の方には、大いなるファンタジーをお勧めさせて頂きたい。

さて2つ目の問題は時間である。当時、幾つかの職を兼任し、演奏会も行い、週末には各種講習会や会議などに赴いていた私に、一体いつ翻訳をする時間が作れるのであろうか? 基本的には年金生活が訪れるまで待たなければならない状態におかれていた。しかし、そんな状況にも変化が現れた。


翻訳作業を開始するきっかけ

2012年8月、私はそれまで21年間続けてきたミュンヘン・キリスト者共同体の音楽責任者という任務に終止符を打った。その職場に問題が起きたからであるが、その仕事の為にかなりの時間を費やしていた私に取り敢えず貴重な時間が出来たのである。それが実際に翻訳作業を開始するきっかけとなった。今から5年前のことである。アルミン・フーゼマンは直ぐに翻訳の委任状を作成して下さった。又、ドイツ・シュトゥットゥガルトに本拠を置き、アントロポゾフィー関係の医学書出版などをサポートするクリストフォールス財団も後援を申し出て下さった。この場を借りて改めて御礼を申し上げたい。

さて当初、翻訳の終了と日本語版の出版は2014年を目指していた。それが難しくなり、結局3年も時間がずれてしまったのは、私がキリスト者共同体を離れた(とは言え、それはミュンヘンからだけのことで、地域を越えての委員会などでは今も活動しているが)ことを知ったミュンヘン西郊外のシュタイナー学校から、高等部で音楽を教えて欲しいという依頼が入り、それを引き受けたからである。9年生から12年生までの合唱と作曲の授業を担当しているが、シュタイナー学校で教師として働いたことがある人であれば、この課題が、上から下への単なる知識の伝達ではないことは直ぐにお解り頂けると思う。それまで私は同じ学校でオイリュトミー授業の伴奏を数時間受け持っていたので、全てが新しくなった訳ではなかったが、教える立場になったことによる内面的な環境変化は著しく、それに順応する為にかなりの労力が必要とされた。こうした事情により、出来たと思った時間がなくなってしまったのである。


クライスの創立10周年と本書の出版

しかし引き受けたからには、いつか必ずやらなければならない。また出版元のSAKS-BOOKSが所属する四国アントロポゾフィー・クライスは本書出版と時期を同じくして創立10周年を迎えることもあり、そのお祝いも兼ねてこの夏の出版を目指した。その為に惜しみなく力を注いで下さった、編集長の髙橋祐太氏を筆頭に、クライス理事代表の竹下哲生氏、また翻訳が遅れたからこそ本書の出版・販売に大きく携わって下さることとなったフィッシュ明子女史、そして今回は勿論のこと、クライス創立当初からあらゆる方面で弛まぬ努力をして下さっている小畑奈穂子・林明子の両女史に限りない感謝を贈らせて頂きたい。加えて翻訳作業が集中した1年間、オイリュトミー療法修士、又ミュンヘン・アントロポゾフィー協会理事として自らも多忙でありながら、日常生活から校正作業に至るまでサポートしてくれた妻の恵美にも感謝を捧げたい。彼女も私もちょうどムーンノードのリズムに入っていた。

他にもまだ感謝しなければならない方々がいるが、何よりも先ず、ゲーテの原植物発見からちょうど230年経たこの2017年に、ここに書かせて頂いた経緯をへて本書の日本語版出版へと導いてきてくれた運命に感謝したいと思う。


2017年8月 ミュンヘン郊外プッハイムにて
吉田和彦



アルミン・J・フーゼマン著
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吉田和彦|Kazuhiko Yoshida
1984年ミュンヘン・オイリュトミー協会の招聘により渡独。ヨーロッパ各地で演奏及び作曲・教育・講演の分野で活動。ミュンヘン・キリスト者共同体音楽監督、M. チェーホフ演劇学校、シュトゥットゥガルト・プリスターゼミナールの各音楽講師を歴任。ゲーテアヌム朗誦・音楽部門並びにキリスト者共同体音楽委員会の中心メンバー。2012年よりミュンヘン西郊外のシュタイナー学校高等部で合唱と作曲を指導。2017年秋より南バイエルン・シュタイナー学校教員養成セミナーの音楽講師を兼任。


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