2016年12月9日金曜日

【コラム】ドイツの政治にも観察される自我の進化

アントロポゾフィー実践100年を迎えようとするドイツで、例え無意識であろうとその影響が生活の様々な分野で観察出来ることはこれまでにお話ししてきました。先日聞いたラジオのニュースでも現在ドイツの酪農家の半分が無農薬牛乳を出荷しておりそれはまだまだ増加傾向にあることを伝えていました。一人一人の意識の高さをこういうところで常に感じられる訳です。

ところでこの11月は何と言っても次期アメリカ大統領トランプの話題で世界中が盛り上がりましたが、ドイツでも来年には2月に大統領が交代し更に秋には連邦議会総選挙が行われ新たに首相が任命されます。

ちょうど日本を訪れていた現ドイツ大統領のヨアヒム・ガオクは非常に高い評価を得ていて、政党を超えて誰もが彼の留任を望みましたが、高齢を理由に彼自身がそれを辞退しました。よってここ数か月間、誰が彼の後任になるのか論議されていました。また来秋の総選挙でアンゲラ・メルケルが次期首相に再び立候補するのかしないのかということも常に話の種になっていましたが、大方の予測通り、彼女は首相候補として選挙に臨むことを昨日明らかにしました。

彼女の立候補を党派を超えて評価する人は少なくありません。例えば数日前に声を上げたのがシュトゥットゥガルトに首都を置くバーデン・ヴュルテンブルク州知事、緑の党所属のヴィンフリート・クレッチュマンです。『アンゲラ・メルケルの政策は正しい。彼女はヨーロッパにとっても非常に重要な政治家だ』…と彼女の功績を称えました。緑の党は日本でもお馴染みのように環境保護などを第一に掲げた比較的新しい政党ですが、その党からの出馬で初の州知事になったクレッチュマンに褒められたアンゲラ・メルケルはCDU(ドイツキリスト民主同盟)、日本で言えば自由民主党的立場にある政党の党首でもあります。

さて、このコラムが書かれる2週間程前に日本で言えば社会民主党的な立場にあるSPD(ドイツ社会民主党)が現外務大臣のヴァルター・シュタインマイヤーを次期大統領に推したいと提案しました。そしてこれが先週になってCDUとその姉妹政党でバイエルン州の議席過半数を握るCSU(キリスト社会同盟)によって承認されました。その時のアンゲラ・メルケルの発言は『シュタインマイヤー氏は芯のしっかりとした政治家。彼ほどドイツの新大統領の任務に相応しい人物は他にいない。』という賛辞でした。

緑の党の政治家がCDUの政治家を褒め、そのCDUの政治家がSPDの政治家を褒める。…こうなるとドイツの政治はもはや政党レベルではなく『個人の尊厳』レベルで行われていると言わざるを得ません。政党が違う訳ですから考えの違いも多々あるのは当然です。しかし、それだからといっていがみ合うのではなく、一人一人の人間の考え方や行動を客観的な目で捉えリスペクト出来るのが今のドイツの政治家たちであり、この様な事実の中にドイツに於ける自我の進化を感じざるを得ないのです。

自我を持つということは、物事を正しく判断する能力を身に付けるということでもあり、他人に対してリスペクトばかりすることでは勿論ありません。そういった意味で今回のアメリカ大統領選で多くの、というより殆どのドイツ国民の期待を裏切ってドナルド・トランプが当選した際のアンゲラ・メルケルの祝辞が印象的です。それは祝辞というよりも選挙運動中のドナルド・トランプの問題発言に対する警告文という方が相応しい程、ドイツのはっきりとした態度を示すものです。4年連続赤字国債ゼロ、30歳前後の若い世代の3分の2以上が難民受け入れに理解を示す国の責任を負う首相だからこそ言える事なのかも知れません。その翻訳をここにお届けしこのコラムを終えたいと思います。  

2016年11月21日記
吉田和彦(在ミュンヘン・音楽家)


2016年11月9日
ドイツ連邦共和国首相 アンゲラ・メルケルの祝辞
皆さん、私はアメリカ合衆国大統領選挙の勝利者ドナルド・トランプ氏にお祝いを申し上げたいと思います。
アメリカ合衆国は長い歴史を持ち又尊厳を持った民主主義国です。今回の大統領選挙は今までになく特別で、時には耐え難い程の対立に包まれていました。ですから多くの皆さんと同様、私も心を張り詰めて選挙の行方を追っていました。
アメリカ国民が自由で公平な選挙に於いて誰を大統領に選ぶのかということはアメリカ以外の国にも大きな意味があります。私たちドイツにとって言えることは、欧州連合以外の国でアメリカほど深く結びついている国は他にないということです。
この大きな国を、これまでの巨大な経済力・軍事能力・文化的影響力を以って統治する者は責任があり、この責任はほぼ全世界が感じ取ることなのです。この責任をこれからの4年間ドナルド・トランプ氏が担うことをアメリカ国民は決めました。
ドイツとアメリカは価値観で結ばれています。それは民主主義、自由、出身地・人種・宗教・性別・セクシュアルなオリエンテーション・政治的な意見の違いに拘わらず人間の権利と尊厳をリスペクトすること、などです。
この価値観を基本とした上で、私は次期アメリカ合衆国大統領のドナルド・トランプ氏に密着した国際協力を提供したいと思います。
ドイツで、ヨーロッパで、そして世界で、『経済や福祉の充実』『将来を見通した環境保護への努力』『テロリズムとの闘争』『貧困・食料不足・病気対策』『平和と自由の為の戦い』…そうした課題に於ける努力という、時代の大きな要求に答えていく上で、アメリカ合衆国との協力関係は今もそして今後もドイツ外交の基盤なのです。
御清聴有難うございました。


吉田和彦(音楽家 在ミュンヘン)
1960年東京・中野生まれ 国立音楽大学ピアノ科を優秀な成績で卒業後、ミュンヘン・オイリュトミー協会の招聘により1984年渡独 以後ドイツはもとよりヨーロッパ各地において演奏のみならず作曲・教育・講演等の分野で活動 仕事の傍ら6年間に渡りクラウス・シルデ教授に師事 2006年ドイツ国籍取得 現在ゲーテアヌム朗誦・音楽部門やキリスト者共同体・儀式音楽委員会などの中心メンバーとして活躍 四国アントロポゾフィー・クライスでは創立前より助言者として協力している


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