
それでは先ず、本書が出版されるに至った経緯についてお願いします。
実は、その点に関しては少し複雑です。というのも、今回の原稿の元になったお話は、精神科学自由大学の「説明会」なのです。大学の責任者であるヨハネス・キュールさんとヨハネス・グライナーさんが、去年の春と夏にスイスからいらっしゃって、関西の人を対象にお話しされた内容が本書になっています。
それは一般的な意味での「講演」とは大きく異なります。講演には普遍性がありますから、それを理解できる人には必ず意味があるということになるのですが、説明会というのは特定の興味を持った人へのインフォメーションなのです。そして、そういう「特定の興味」が無い人には全く意味の無い情報が書かれているということになってしまいます。具体的に言うと、それが「大学の説明会」だということは、そこに来ている人は基本的に皆アントロポゾフィー協会の会員なのです。ですから、そういった内容を本にする意味が有るのかという「そもそもの議論」が最初に有りました。
とは言え内容的に見れば自由大学だけではなく、アントロポゾフィー協会と自由大学との関係性も解説し、これまでそういった関係性についての考察や議論はあまりありませんでしたから、価値のあるものだという結論に至りました。
具体的にどのような内容が書かれていますか。
この事柄に関連して、協会の「アイデンティティの問題」に言及しておこうと思います。詰まりアントロポゾフィー協会は、他の様々な協会と何が違うのかという問題です。言うまでもなく、それを論じることは「会員に成る」という行為に、最も説得力の有る根拠を与えることになります。「客観的な勧誘」と言いますか、理論的に「協会に入らなければならない理由」を提示する訳です。
しかし客観的であることの度が過ぎてしまうと、それは人間が個人的な感覚を持つことすらも否定してしまう可能性が有ります。ですから、この問題を論じる時には上手に主観性と客観性のバランスを取るというか、そういうことが大切になってくる訳です。そして実際、本書の中心的なメッセージはそこに有るのだと考えています。
それは他者の「自由」に配慮するということですか?
そうです。それでキュールさんは正に、この「アイデンティティの問題」に関わる質問を参加者から受けたのですが、そいう事柄には全く触れませんでした。
とは言え客観的な問題を無視してしまうと、全てが主観的になってしまう危険性が有ります。そこで「歴史的な関連性」という観点が必要になって来ます。詰まりルドルフ・シュタイナーが、今から約百年前に「協会」に関して何を考え、そして実際に何をしたのかという問題です。この点に関して僕は入間カイさんに、個人的に感謝しています。というのも『シュタイナーが協会と自由大学に託したこと』(水声社2014/08)という書籍によって、この問題について考察する時に最低限必要な資料は全て日本語で公開されたからです。実は僕も、この本に掲載されている文書の半分は既に訳し終えていたのですが、彼の仕事に感謝しています。ですから本書そのものが、カイさんが訳された本の紹介にもなればとも考えています。
随分とこの本から引用されていましたね。では、最後に何か一言お願いします。
そうですね。僕は、この本には「社会問題への向き合い方」が書かれていると思います。勿論、それが全てではないですが「協会」や「精神科学自由大学」には興味が無い方でも面白いのではないかと思います。
簡単に言うと「私たちは社会問題に取り組む時に『肯定する力』を積極的に使えないだろうか」ということです。そして否定する力は、思考と認識を通して「問題を意識すること」に使っていけば良いと思うのです。本書では協会と精神科学自由大学という二つの軸を行き来しながら、個人であること、また個人として社会で何が出来るかということについて考える(行動する)切っ掛けを取り扱っています。
ありがとうございました。
ありがとうございました。




竹下哲生/Tezuo Takeshita(Shikoku Anthroposophie-Kreis代表)
1981 年香川県生まれ。2000 年渡独。2002 年キリスト者共同体神学校入学。2004年体調不良により学業を中断し帰国。現在自宅で療養しながら四国でアントロポゾフィー活動に参加。共著『親の仕事、教師の仕事〜教育と社会形成〜』訳書『アトピー性皮膚炎の理解とアントロポゾフィー医療入門』(SAKS-BOOKS)他。
1981 年香川県生まれ。2000 年渡独。2002 年キリスト者共同体神学校入学。2004年体調不良により学業を中断し帰国。現在自宅で療養しながら四国でアントロポゾフィー活動に参加。共著『親の仕事、教師の仕事〜教育と社会形成〜』訳書『アトピー性皮膚炎の理解とアントロポゾフィー医療入門』(SAKS-BOOKS)他。



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