
その25年後に『霊学の観点からの子どもの教育』(R. シュタイナー)を紐解いたのは、現代日本の学校教育の根本を見直す必要性を、教員経験から痛感したからだ。10冊近く真剣に読んできたが、霊学(精神科学)、エーテル体(生命体)、アストラル体(感情体)、気質、という視点に馴染めない。傍線を引き、表にまとめてもやっぱり没頭できない。
子どもの発達のメカニズムが具体的に分かる
ところが、この小冊子はちょっと違った。子どもの発達への理解が自然と進んだ。いや、理解の仕方にいいヒントをもらったというべきかも知れない。
この訳書は、ラトビアの女性小児科医であるアンダ・フラウマーネ=ヤッヘンス(1961年生まれ)さんが昨夏、徳島県で40名前後の参加者を相手に行った講演を中心に編集したものだ。たった70分ほどの講演だけで単行本(小冊子)にすることになったのは、講演内容が参加者に好評を博したし、本にして精読したいという声が強かったことによる。
なぜ好評を博したのかは、第一章(三歳まで)、第二章(三歳から)、第三章(九歳から)と質疑応答を読めば分かる。ここまでで、たった30ページの分量だ。やっぱりエーテル体(生命体)やアストラル体(感情体)という語句は出てくるが、子どもの発達のメカニズムが平易で具体的に語られているから妙にストンと腑に落ちる。
年齢に応じた教育方法が子どもを育てる
例えば誕生後、数時間ごとの授乳と睡眠のリズムが「食べる」ことと「寝る」ことの大切な能力を身につけることになり、しいては「昼と夜のリズムを教えている」という話がある。このリズムが人生最初の一年間の最も重要なテーマだという彼女の言葉に、参加者のほとんどの親たちはわが子の最初の一年間を振り返って、唖然としたことだろう。授乳が終わるころに眠りに落ちた乳児の寝顔は、授乳者(たいていは母親)への休息のサインであってリズム形成のサインではなかったからだ。
また、二歳以降の何もしゃべらない「静寂の時間」に、幼い子が両親の日本語を聞きながら「日本の言語霊(精神)と結びついて育っている」ことが分かっていれば、幼児期から英語教育をすることが及ぼす悪影響も十分に推測できるというものだ。
三歳ごろから「感覚的な世界にめざめる」から、子どもは大人に「どうして」を連発する。「どうして草は生えてくるの?」「どうして空は青いの?」「どうして赤ちゃんは生まれてくるの?」と問われ、答えに窮した経験をどの親も持っている。幼子に理解してもらえる説明が難しいからだが、それ対して、科学的に「滔々と説明を始める」ことは危険なことで、子どもが病気になる症例もあると小児科医の経験から彼女は言う。子どもの発達段階を知ることの責任の重さを、親も教師ももっと謙虚に学ぶ必要がある。
分かりやすい解説で現代社会へ訴えかける
訳者の解説と補足も含めて、分かりやすい具体例が示されているから、たった60ページ余りの小冊子なのに、シュタイナー教育の入門書・教科書・啓蒙書、そして現代社会への警鐘の書物として、内容は十分に濃くて深い。シュタイナー教育をもっと実学にしていくためにも、続編の上梓を待ちたい。
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