2014年8月28日木曜日

リューダー・ヤッヘンス医学博士:アトピー性皮膚炎の理解とアントロポゾフィー医療入門 6


通常私たちは専門家でもない限り、あまり深く皮膚について考えることは無い。しかしアントロポゾフィー医療の観点から皮膚について考察する時、これまで私たちが思い描いていた皮膚についての表象とは全く違う深度を持った皮膚理解——人間理解——に導かれる。2014年8月29日—31日にかけて徳島で行なわれる『渦:混沌の創造性』の為に来四されるリューダー・ヤッヘンス医学博士の著書『アトピー性皮膚炎の理解とアントロポゾフィー医療入門』から、「公開講演I アトピー性皮膚炎の理解と病気の治療」を連載でご紹介したい。また8月の一連の講座では、様々な催しが企画されている。こちらも奮ってご参加頂きたい。

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アトピー性皮膚炎の予防

さて、以上でアトピー性皮膚炎という病気の本質と、人間存在全体との関係性を特徴づけることが出来ました。では最後にアトピー性皮膚炎を発症しないために、どのようなことをすれば良いのか、また実際にアトピー性皮膚炎を発症した人に対して、アントロポゾフィー医療の現場ではどのような治療が行われているか、ということについて述べてみたいと思います。

先ずは乳幼児に於ける予防として、誕生から四〜六ヶ月間は母乳を与えることが考えられます。当然のことですが、母乳は生後数ヶ月の子どもに、自然が与える最高の栄養なのです。離乳後は有機野菜、詰まり自然に適った形で栽培された食物が薦められます。可能であれば、バイオ=ダイナミック農法による農作物の方がより理想的であると言えます。有機農法で栽培された野菜は、何よりも先ず味が良いと言えます。そして濃厚な味覚体験は、消化液の分泌を促します。教育に於いては、度を超えた競争原理は避けるべきでしょう。また、これと同様に強過ぎる感覚的な刺激もまた可能な限り回避しなければなりません。電気を使ったおもちゃなどは問題外です。現代的な生活をしている我々は詰まり、強すぎる刺激から子どもを意識的に遮断しなければならないということです。また既に述べましたように、子どもが病気になった場合は化学的な薬品で病気を「抑え付ける」のではなく、自然な薬品を使って病気の経過を優しく「制御する」ことが求められるのです。

就学以降の子どもは、放課後に木登りをして遊ぶことが理想的です。木登りをする時、子どもは自分がどの枝を掴むのかということを、正確に把握していなければなりません。その時、子どもは——目という感覚器官を使って——どの枝が掴むのに最も適したものかを正確に観察します。そして、次に自分が見つけた枝を——手という代謝系の組織を使って——しっかりと握らなければなりません。何故なら、そうしないと木から落ちてしまうからです。このように、木登りは上部の人間(神経感覚系)と下部の人間(代謝系)が親密に協力することを子どもに要求します。こうして上部の人間と下部の人間は結びつきを深めあい、互いに影響しあうのです。ですから木登りは、子どもを「地に足のついた」人間に育てるのです。

成人に求められることは、過敏な傾向にある神経を抑制することです。既に述べたように、アトピー性皮膚炎の傾向にある人の神経は半ば興奮気味の状態にあるのですが、これを制御する訓練があります。例えば皆様、誰もが自分で何処かに置いたはずの自動車の鍵が見つからない、という経験をしたことがあると思います。こういったことが起こるのは、我々が無意識に、詰まり神経が「独立して」鍵を置くという行為をしているからなのです。こうした事態を打破する為には、先ずは無意識的な「習慣」の領域から外へ踏み出すことが肝要です。具体的に述べるならば、自分自身の生活習慣からは絶対に考えられないようなところ、詰まり「絶対に鍵を置かないようなところ」に意識的に鍵を置くのです。こうして我々は、常に張り詰めていて勝手に機能しようとする神経に、意識的な行為を通して対抗することが出来るのです。

そして意識的に鍵を置くときに、その状況を可能な限り細部まで観察して、それを記憶に留めるようにして下さい。例えば「書斎の黒い机の右手前に——鍵の先がむこう向きになるように——この鍵を置く。鍵の向こう側には何時も使っているお気に入りの万年筆が先を右向きにして置かれていて、その左には一昨日読み始めた推理小説が表紙を下にして置かれている。その本に挟んだ栞は僅かに外にはみ出ており、下から三分の一くらいの高さにある」といった具合です。こうすることで、皆様の魂の中にある記憶像は生命力を得ます。そして生き生きとした記憶像というのは、容易に思い出すことが出来るのです。このような記憶像を生み出す為には、活発な「意志の力」が必要です。換言するならば、そのとき人間は意志(代謝系)によって思考(神経感覚系)を制御しているのです。上部の人間と下部の人間を結びつけるという、子どもに於いては木登りを通して達成されていたことが、成人に於いてはこのようにして為されるのです。


アトピー性皮膚炎の治療

次にアトピー性皮膚炎の治療について述べてみたいと思います。

アトピー性皮膚炎を発症する傾向を持った人間の皮膚組織には、元来「組織を築き上げる力」が少ないということは既に述べられました。ですから治療に於いては、この不足した組織を築き上げる力を支え、促進することが求められるのです。その為に、我々は月の力の地上的な象徴である銀Agを用います。月の力は地上に於ける生命の営みを司っており、この銀を「ホメオパシー」という製薬法によって薬にすることで、生体組織を築き上げる力(生命の力)を促進させる内服薬が得られるのです。

或いは乾燥傾向にある肌に潤いを与えるための薬も有ります。この薬にはマツヨイグサOenothera biennisという植物が用いられます。マツヨイグサは種から油を抽出することも出来ますし、植物全体をホメオパシーの手法によって薬にすることも出来ます。また製薬会社のヴェレーダWeledaには、この植物が元来持つ効能を更に高める特別な方法があります。それは、このマツヨイグサを三年に亘って銀塩を肥料として与えて栽培することです。こうすることで、マツヨイグサ元来の特性が上に述べた銀の生命の力によって更に強められるのです。こうして作られた薬は、不足している皮膚組織を築き上げる力を強め、そして高めます。

また以上のような本質的な治療以外に、症状そのものを和らげることを目的とした薬も有ります。それはベンケイソウBryophyllumを用いた薬なのですが、この植物は非常に特別な生態を持っています。この植物の葉は全体としては丸みを帯びた形をしていますが、縁は鋸の刃のようにギザギザとしています。そしてこのギザギザの先端には、非常に小さな植物(子株)が付いているのです。更によく見てみると、この子株からは既に根が生えていることが分ります。そして、この子株が葉から離れて地表に落ちると、すぐに大地に根を張って成長を始めるのです。ですからベンケイソウは種によってではなく、この子株によって無性生殖で子孫を増やすのです(ベンケイソウは花を持っていますが、この花に生殖機能は有りません)。このベンケイソウを用いた薬は、過敏になっているアトピー性皮膚炎の患者の神経を、真綿で優しく包むような効能が有ります。

次はゲンチアナGentiana luteaを紹介したいと思います。この植物は山岳地帯に生息し、成人よりも少し小さいくらいの高さまで成長します。茎は棒のように真っすぐで垂直に立っており、それは恰も人間の立ち姿のようです。発芽から七年目にやっと花をつけ、七十年もの長きに亘って成長します。この植物は元来非常に苦いものなのですが、特に春先、未だ頭が雪に覆われている時期に最も苦くなります。そのときゲンチアナは春に向かって一気に成長したいと願っているのですが、それが雪と寒さによって、いわば「堰き止めらている」状態にあるのです。このような植物の「苦しみ」は、「苦味」となって表れます。ですから元来苦いゲンチアナは、春先に最も苦くなるのです。基本的に苦い味のするものは全て腹部の働きを活発にします。何故なら苦味を感じる舌の付け根辺りは、神経を通して消化系の腺組織と繋がっているからです。ですから舌が苦みを感じると、反射によって消化活動が促されるのです。ゲンチアナを用いた薬は、消化機能が低下したアトピー性皮膚炎の患者を助けます。

以上がアントロポゾフィー医療に於いてアトピー性皮膚炎の患者に処方される代表的な薬です。言うまでもなくアトピー性皮膚炎の患者に処方される薬は、これ以外にもたくさん有ります。そして、それらは症状や患者の特性に応じて使い分けられるのです。


最後にアントロポゾフィー医療だけが持っている特別な治療方法である「オイリュトミー療法」について紹介したいと思います。

「オイリュトミー」というのは先ず、舞台芸術としてシュタイナーによって創始されました。オイリュトミーは人間の形姿を素材として、言葉や音楽などの「目に見えないもの」を運動によって「目に見えるもの」にします。そして、舞台芸術に於いては舞台上から観客席に向かうはずの芸術的な作用を、オイリュトミー療法に於いては患者自身に向けるのです。治療に於いて患者は指示されたオイリュトミーの動きをし、この動きの作用が患者自身の人体に治療的に作用するのです。

アトピー性皮膚炎の治療に於いて重要なことは、オイリュトミー療法を通して患者が失っている皮膚の保護機能を促進することや、過剰な働きを示す神経感覚組織を鎮めることです。これに加えて、神経感覚組織とは正反対の機能を持つ代謝の組織の働きを活発にする為の、働き掛けもしなければなりません。

またアントロポゾフィー医療に於いては、オイリュトミー療法以外にも様々な芸術療法が実践されています。例えば絵画療法は、意識的に色彩を用いる行為を通して、独自の活動を展開してしまった神経感覚系に温かな感情を流し込みます。

そして医師との対話による治療、いわゆるカウンセリングに於いて特に重要なことは、アトピー性皮膚炎の患者にとって日常生活と環境に於ける何がストレスの原因になっているのかということです。特に、こうしたストレスの原因が患者の人生の歩みの中で重要な局面——例えば離婚や肉親の死別など——と関係している場合、医師と患者の間で適切な信頼関係を構築することが非常に重要になってきます。何故なら敏感で繊細な傾向を持ったアトピー性皮膚炎の患者は、「他者との適切な距離」を見出すことが難しいからです。ですから、こうした過程を助ける為に医師との対話というものが重要になるのですが、多くの患者に於いて「方向性」は比較的容易に見出されます。

(続く)


リューダー・ヤッヘンス医学博士(皮膚科医)
1951年ドイツ・ブレーメン生まれ。キールとゲッティンゲンの大学で医学を専攻し、卒業後、1984年から皮膚科医師としての活動を開始。1992年に南ドイツ・アルゴイ地方のシュティーフェンホーフェンにクリストフォールス診療所を設立。1993年からアントロポゾフィー皮膚科学会を主宰。スイス・アーレムハイムの癌専門病院ルーカス・クリニックでの医学ゼミナールやドイツ・シュトゥットゥガルト近郊の総合病院フィルダー・クリニック、そしてWELEDAWALAといった製薬会社などにおいて、ヤッヘンス氏は指導的立場にあり、診療所が休診である週末の殆どが、各地での講演やゼミナールで埋め尽くされている。地元ヴァンゲンのアントロポゾフィー協会では精神科学自由大学の分野などで重要な課題を担っている。
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