2014年8月19日火曜日

リューダー・ヤッヘンス医学博士:アトピー性皮膚炎の理解とアントロポゾフィー医療入門 5


通常私たちは専門家でもない限り、あまり深く皮膚について考えることは無い。しかしアントロポゾフィー医療の観点から皮膚について考察する時、これまで私たちが思い描いていた皮膚についての表象とは全く違う深度を持った皮膚理解——人間理解——に導かれる。2014年8月29日—31日にかけて徳島で行なわれる『渦:混沌の創造性』の為に来四されるリューダー・ヤッヘンス医学博士の著書『アトピー性皮膚炎の理解とアントロポゾフィー医療入門』から、「公開講演I アトピー性皮膚炎の理解と病気の治療」を連載でご紹介したい。また8月の一連の講座では、様々な催しが企画されている。こちらも奮ってご参加頂きたい。


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子どもの発症と“現代病”としてのアトピー性皮膚炎

今度はアトピー性皮膚炎を発症する子どもに目を向けてみましょう。現代社会に生まれてくる子どもは、驚くほど覚醒した意識を持っています。彼らは生後間もない段階から、感覚器官で周囲の事物を知覚するということを始めます。そして、それらに興味を持つ頃には電気機器のような複雑な対象も好むようになります。つい半世紀前に遡ってみると、こうした傾向を持つ子どもは居ませんでした。一昔前に生まれた乳幼児は、眼は開いていても外的な事物を見てはおらず、起きていても夢を見ているような、ぼんやりとした意識を持っていました。

こうした状況を捉われなく観察するならば、現代社会に生まれてくる子どもは、魂の生活を覚醒したものにする要素を生まれながらに持っているという印象を受けます。或いは、この数世紀の短い期間に、人間の遺伝的な素質が根本的に変化したと解釈することも出来ます。何れにせよ、こうした事実の中に我々が生きている時代の特性が浮き彫りになっていると考えることが出来ます。そしてシュタイナーは、こうした事実に関して以下のような提言をしています:

未だ健全な人生観が残っていた時代に於いては、その人生観が人間の内面に強い中心点を作り出していました。そして、この中心点は人間を完結した統一的人格にし、子孫を壮健で丈夫なものにしました。しかし[今の様に]物質に対してしか信頼を持てない時代に於いては、体の中の全てが我が道を歩む様な、そういった体を持つ子孫を生み出してしまいます。詰まり、そのような体に於いては何も中心には残っておらず、その事実は神経衰弱と神経過敏の前兆につながります。[. . .] 精神病が流行り病になり、子どもは誕生時から神経過敏と痙攣に苦しむことになるかも知れません。そして唯物的な人生観の更なる結末とは、既に我々が今日見ることが出来るような、集中力を持たない、常にうわの空で落ち着きの無い人種なのです(註6)。

現代に生まれてくる子どもの両親は、長年に亘って勤勉に働いていました。そして、そこに於いて最も重要なことは——日本に於いてもヨーロッパに於いても——物質的で感覚的な事柄が滞りなく行われる、ということなのです。詰まり我々の生活の殆どは、外的な事物に秩序を与えるために費やされているのです。そして、その結果として我々の生活からは精神的な事柄への重要性が失われていったのです。こうして人間の中部に位置した「中庸の力」は外へと追い遣られ、その傾向が遺伝して後世に引き継がれるようになったのです。

人体の遺伝傾向と同様に、人間を取り巻く環境もまた、この半世紀ほどで急激に変化しました。皆様ご存知のように、現代社会はこれまで人類が一度も経験したことが無いほど多くの化学的な物質で埋め尽くされています。人工的な化学物質であるプラスチックがひとつも無い家というのは全く想像が出来ませんし、我々が毎日生活している大気には工場や自動車などから排出された化学的な物質が満たされているのです。また作物の数量的な側面しか考慮されていない工業化された農業によって、食べ物から得られる栄養の質というのは近年急激に低下しています。

電気の発明によって我々は太陽の生み出す昼夜のリズムに束縛されずに生きる自由を手に入れましたが、それによって現代の人間は健康な生活のリズムを容易に失う傾向も同時に得てしまいました。またテレビやゲームに代表されるような強い感覚的な刺激を生み出す機器により、我々は内面生活の静けさを失いました。そして繊細で敏感な感覚の持ち主は、現代社会が与える強過ぎる感覚への刺激に、実際悲鳴を上げているのです。こうして我々の内面生活の最深部にある精神は、行き先を失ってしまいました。こうした精神生活の「浮遊感」というのは、その土地特有の宗教の力が強かった時代に於いては、考えられなかったことです。そして、これらの傾向は全て我々の生活を息苦しいものにし、我々の毎日をストレスに満ちたものにしたのです。

ここで、人間がこの世に生まれて来るという過程について詳しく見てみたいと思います。先ず、人間存在の本質的な部分、即ち精神的な要素は天界から降りて来ます。それに対して人間の体は、この地上的な世界で用意されます。何故なら人間の体の特質は、全て「遺伝の法則」によって規定されるからです。詰まり、この世に生きる人間に於いては深く結びついている体と魂は本来、全く異なる領域に由来し、誕生に於いて初めて合流するのです。ですから誕生とは、上から降りて来た人間の魂が地上世界に脈打つ「遺伝の流れ」に合流する、ということであり、また人間の本来的な要素である魂が、自らの住まいである体の中に歩み入る、ということなのです。

そして、こうして歩み入った「住まい」が魂にとって適切なものであるならば何の問題も無いのですが、仮にそれが魂の本質に合わない場合は、この住まいの「建て直し」が必要になるのです。そして、こういった建て直しの為に、乳幼児に特有な病気や感染症が必要なのです。感染症に於ける発熱や炎症という火の要素(エレメント)によって、自らの魂に適さない遺伝的な要素は熔かされ、そして自らの存在に適した形態に鋳直されるのです。ですから乳幼児に於ける発熱を伴った感染症を、不自然に抑え付けるのは良くないことなのです。

例えば予防接種の様な措置も、必要最低限のものに留めるべきです。同様に抗生物質や解熱剤なども、使用されるべきは緊急時に於いてのみです。既に述べたように、子どもの発熱というのは、その子どもが自らの個性に応じた体を得ようとしている過程なのですから、子どもが熱を伴った感染症を発症することは、寧ろ喜ばしいことなのです。とはいえ、こうした考えが子どもの発熱を極端に楽観視する傾向を生み出してはなりません。感染症が子どもの命に係わるほど危険なものとならない為には——自然で優しい薬を用いて——発熱の経過は然るべきかたちで制御されなければならないのです。

話が少し脇に逸れてしまいましたので、話を本題のアトピー性皮膚炎に戻しましょう。西側の文明圏に於いてアトピー性皮膚炎の発症率が非常に高いという事実を、我々はどう解釈すればよいのでしょうか。既に述べましたように、自由な市場経済というのは、競争原理によって支えられています。競争原理の支配する世界では常に効率と成果が求められ、それは時に人心を圧迫します。市場原理の中で経済が発展する社会は、成果を上げなければならない重圧を課し、生活を慌ただしいものにし、人間から豊かな時間を奪います。正に、こうした事実に我々は、西欧文明圏で顕著に見られるアトピー性皮膚炎の原因を見出すことが出来るのではないでしょうか。確かに日本は地理的・民族的に見れば東アジアの文化圏に属していますが、世界有数の経済大国である日本は——少なくとも以上のような意味に於いては——当然、西側の欧米的な文明世界に属するのです。

(続く)

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  • 6 ルドルフ・シュタイナー1907年6月22日カッセル 全集100番 第七講 89頁

リューダー・ヤッヘンス医学博士(皮膚科医)
1951年ドイツ・ブレーメン生まれ。キールとゲッティンゲンの大学で医学を専攻し、卒業後、1984年から皮膚科医師としての活動を開始。1992年に南ドイツ・アルゴイ地方のシュティーフェンホーフェンにクリストフォールス診療所を設立。1993年からアントロポゾフィー皮膚科学会を主宰。スイス・アーレムハイムの癌専門病院ルーカス・クリニックでの医学ゼミナールやドイツ・シュトゥットゥガルト近郊の総合病院フィルダー・クリニック、そしてWELEDAWALAといった製薬会社などにおいて、ヤッヘンス氏は指導的立場にあり、診療所が休診である週末の殆どが、各地での講演やゼミナールで埋め尽くされている。地元ヴァンゲンのアントロポゾフィー協会では精神科学自由大学の分野などで重要な課題を担っている。
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