2014年8月2日土曜日

リューダー・ヤッヘンス医学博士:アトピー性皮膚炎の理解とアントロポゾフィー医療入門 2


通常私たちは専門家でもない限り、あまり深く皮膚について考えることは無い。しかしアントロポゾフィー医療の観点から皮膚について考察する時、これまで私たちが思い描いていた皮膚についての表象とは全く違う深度を持った皮膚理解——人間理解——に導かれる。2014年8月29日—31日にかけて徳島で行なわれる『渦:混沌の創造性』の為に来四されるリューダー・ヤッヘンス医学博士の著書『アトピー性皮膚炎の理解とアントロポゾフィー医療入門』から、「公開講演I アトピー性皮膚炎の理解と病気の治療」を連載でご紹介したい。また8月の一連の講座では、様々な催しが企画されている。こちらも奮ってご参加頂きたい。


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人体の三構成

今からお話しする人間学の基本理念は、シュタイナーの「人体の三構成」という考え方で、第一次世界大戦も終盤に差し掛かっていた1917年に発表されました。

先ずは神経組織から始めたいと思います。我々人間は神経組織によって日中の覚醒した意識を持つことが出来ます。確かに神経組織はからだ全体に見出されますが、その中心は頭部に有ると言えます。神経組織の中枢たる脳がそれです。頭部には目や耳や鼻などの様々な感覚器官が集中しており、我々はこうした感覚器官を通して外界を知覚することが出来ます。また目覚めた意識の中で我々は、感覚器官を通して得た知覚について思考します。思考には当然、神経組織の中枢たる脳が用いられており、その脳を含む頭部には正に「目覚めた意識の中心」が有るのです。そして、このような神経感覚系の組織は人間の形姿の中で上部に位置しています。

人間の頭部は思考する為に、或る程度涼しい状態になければなりません。ですから日本のように温暖な気候の中で、しかも夏という非常に蒸し暑い季節に、このような複雑な講演を聴いて、それを思考を通して理解する為には、この会場のようにクーラーが点けられていることは非常に重要なことです。何故ならば、お陰で頭部が涼しい状態に保たれるからです。逆に私が立っているこの演台は、強い照明によって随分と熱されていて、まるでグリルの上で焼かれる魚にでもなったような気分です。そして、このように頭部を熱くする照明の下に居ることは、少なくとも思考活動にとっては余り好都合なことではないのです。何も考えられない状態にある人が思考力を取り戻す過程を「頭を冷やす」と言いますが、確かに頭部は涼しさが無ければ思考に仕えることは出来ないのです。

さて神経感覚系の活動は、人体の中で起こる分解と解体という過程に支えられています。これは少し難しいので、身近な例を挙げてみましょう:脳という組織がどれだけ大量の糖分を必要とするかは、皆様も既にご存じのことだと思います。ですから脳を巡る血流の中に充分な糖分が存在しない場合、我々は集中して思考するということが出来ないのです。そしてこの場合、我々は何かを食べることで糖分を補給しなければなりません。詰まり、脳という組織の中で糖分が分解されるという過程が起こることで、我々の魂は覚醒した意識を持ち、思考することが出来るのです。

また神経感覚組織が活発に活動している領域には、強い形成力が働いています。それは形を持たない物質に形態(フォルム)を与える力のことです。これは素材を「形づくる力」と言うことも出来ます。例えば子どもが遊ぶ粘土は、ゾウの形にも自動車の形にも変えることが出来ますが、子どもが何らかの「形」を作ろうと働き掛けない限り、それは具体的な形を持つことは有りません。詰まり粘土が粘土であるというだけでは——換言するならば——粘土の持つ「素材の力」は、粘土にゾウの形を与えることは出来ない、ということなのです。

さて、このような「形態の力」が神経感覚組織の中枢である人間の頭部に最も強く働きかけているが故に、我々の顔は人間ひとりひとりに於いて実に個性的に形成されているのです。この形成力が頭部よりも強く働いている部位は無いので、我々は人間の形姿の中で顔に於いて最も容易に個人を識別することが出来るのです。逆に形成力が余り強く働いていない「二の腕」を見て個人を識別することは、極めて難しいと言えます。

さて、この様な神経感覚系の組織に機能面で対極に位置するのが、代謝系の組織です。

代謝系の組織は、神経感覚系の組織とは逆に「温かさ」を必要としています。それが最も分り易いのが腹部で、代謝の活発な腹部に於いて冷やされるべき部位は何処にも有りません。詰まり頭部が「涼しさ」を必要としているように、腹部は「温かさ」を必要としているのです。代謝の活動によって、物質を築き上げる素材の力が生じます。腹部に始まる代謝によって、人体は生命力を得て元気になります。血液によって人体を構成する物質が運ばれることで、内臓組織は活動します。

このような、血液による人体の内側での活動を「内的な運動」と呼ぶことが出来るのに対して、「外的な運動」に該当するのが手足(四肢)の運動です。何故なら人間の手足は、人間の体の中で最も顕著な動きをするからです。代謝系の活動もまた——神経感覚組織の活動と同様に——からだ全体に見出すことが出来ますが、以上のような考察から主に腹部や四肢のような、人間の下部に位置しています。

また神経感覚系とは対照的に、代謝に於ける我々の意識は眠っていると言えます。それは一般的な意味に於ける「無意識」の中に在ります。それ故に我々は先ほどのお昼に食べた物が——こうして話を聴いている間に——お腹の中でどのように消化されているかということを、全く知らないのです。神経組織に於いて何かについて考えるとき、我々はそこで起きること全てを意識的に行わなければならないのですが、代謝の組織の中で消化の過程が起きているとき、我々はそのことについて意識的に介入する事は出来ないのです。そこで意識的に活動しているのは我々ではなく、腹部を動かす「自然の叡智」であるということも出来ます。

そして、神経感覚組織が支える魂の活動が人間の思考活動であったのと同様に、代謝組織は人間の意志行動を支えています。我々の体を動かす意志は主に手足の中に生きており、我々が何らかの行動を起こすとき、我々はまず手足を動かすのです。

仮に我々が以上の二つ、即ち上部に位置する神経感覚系の組織と、下部に位置する代謝系の組織だけを持っていたとすれば、我々は統一的なひとつの生体組織として存在することは出来ないでしょう。何故なら神経感覚系と代謝系という全く正反対の性質を持った組織とその活動が、我々の人体を上下に引き裂いてしまうからです。我々が閉じられた、完結した生体組織を持つ為には、上下の人間が持つ正反対の性質が生み出す対立に、均衡と調和を齎す第三の組織が必要なのです。

それが正に「中部の人間」で、それは心臓の鼓動と肺の呼吸によって支えられているのです。この中部の人間は、自然の叡智が与える「巧みな技」によって上と下にある正反対の組織の活動に均衡と調和を齎しています。そして、その巧みな技こそがリズム(律動)なのです。時間的な領域の中でリズムが一つの極から別の極へと往き来することで、両極は結び付けられ、見事に織り成されるのです。そして、この過程は上部の目覚めた意識と下部の眠りの意識の中間にあるので、「夢の意識」の中に有ると言うことが出来ます。

人間の感情生活は、この中部に位置する律動系の組織の活動によって支えられているのです。このことは、誰もが容易に実感することが出来る事実ではないでしょうか。現代的な生理学は、脳で生じる複雑な電気的な過程によって——人間の思考だけではなく——感情すらも生み出されると主張していますが、こうした知識に捉われることなく我々の感情生活を観察するならば、確かに我々の感情は心臓と肺の位置する胸の辺りに存在している、ということを容易に実感することが出来ます(註2)。また逆に、激しい感情が心臓や肺の生理機能に影響を与えることもあります。何か強い恐怖を感じたとき我々の鼓動は高鳴り、呼吸は速まります。

  • 神経感覚系  頭部  上部  冷・涼  分解・解体  形態の力
  • 律動系    胸部  中部
  • 代謝系    腹部  下部  熱・温  構築・合成  素材の力


皮膚の三構成

さて、こうして我々は人体を構成する三つの要素を知ることが出来ました。そして我々は、ようやく本題に入ることが出来ます。それは詰まり、このような人間理解を如何にして皮膚病の治療に役立てることが出来るか、という問題です。そして、この問題に着手する前に我々が為すべきことは、以上のような人体の三要素を、皮膚という特定の組織の中に見出すことです。実際、人体の一部である皮膚の中にも、上に述べたような人間全体に見出される三つの構成要素を見出すことが出来るのです。

人間の皮膚を外から観察した場合、最初に見えてくるのは「表皮」と呼ばれる非常に薄い層で、皮膚組織の中で最も上部に位置しています。角化細胞(ケラチノサイト)は表皮の下部で生成され、その時点で角化細胞は非常に強い生命力を持っています。角化細胞は成熟しながら押し上げられ、細胞内の核を放出したあと生命の無い死んだ角質細胞に変じて暫く留まった後、剥がれ落ちていきます(註3)。そして正常な皮膚に於ける角質成分と脂肪分は、皮膚全体を保護する防壁(バリア)のような機能を果たしています。ですから人間が体表から水分を失い過ぎない為には、或いは外部から遣って来る好ましくない物質から人体を保護する為に、皮膚を形成する実質は一定の「密度」が要求されるのです。適切な密度によって内側からの影響と外側からの影響に対する「壁」になることは、表皮が持つ非常に重要な機能のひとつです。

また表皮を理解する上で重要なことは、そこには無数の末端神経が張り巡らされているという事実です。指先で腕に触れるとき、指先の神経の末端は腕の皮膚の神経の末端に「直接触れ合っている」と言ってよいまでに、神経は皮膚の表面ギリギリのところまで張り巡らされています。だからこそ、我々の皮膚は非常に繊細な感覚器官なのです。ですから、神経感覚系の中心である頭部に於いて我々が覚醒した意識を持っていたように、表皮に張り巡らされている末端神経によって我々の表皮は非常に目覚めた、敏感な状態にあるのです。しかし、こうした敏感さが強められ、過剰に助長されることで、それが皮膚に於ける痒みの原因にもなり得るのです。

こうした神経感覚的な特性とは対照的に、我々の皮膚は非常に強い代謝の機能も持っています。この強い代謝機能は皮膚の中に存在する汗腺に見出すことが出来ます。汗腺は汗を生成し、脂肪分を表皮まで運びます。この腺組織は「真皮」の下層部に位置しています。そして、この真皮の下には皮下組織と呼ばれるものがあり、そこには脂肪が網のように張り巡らされています。この皮下組織の層の厚さは、人によって随分と異なります。

脂肪は生体組織の中で、「熱を生み出す可能性」を与えてくれます。既に述べたように、代謝の活発な腹部の内臓組織は一定の温かさを、詰まり「熱」を必要としています。ですから冬に凍えて肝臓や腎臓が熱を失うと、脂肪分を多く含んだこの皮下組織から、脂肪が内臓器官へと運ばれ、温かさが生み出されるのです。

このように我々は、神経感覚系の組織を表皮に持っているように、代謝系の組織を真皮の下部と皮下組織に持っているのです。

さて最後に残ったのは、律動系の組織です。皮膚に於ける律動系の組織を我々は、上に述べた二つの領域の中間、詰まり真皮の上部に見出すことが出来ます。

真皮の上部は毛細血管が張り巡らされており、この毛細血管の層は表皮のすぐ下まで来ています。感情の動きが律動系の組織によって表現されるという話はすでに述べましたが、例えば何か恥ずかしい体験をした時に我々の顔を赤くするのも、この真皮の上部に見出される毛細血管なのです。詰まり恥ずかしいという感情が、この毛細血管に多量の血液を流し込んだことを、我々は目にしているのです。逆に恐怖の感情などは、この毛細血管から血液を奪ってしまいます。恐怖の瞬間我々は、この現実世界から逃げ出そうとしています。こうして我々の顔は恐怖の体験に於いて血の気を失い、蒼褪めるのです。

このような激しい感情の変化による皮膚の色彩の変化に加えて、我々は昼夜のリズムによる肌の色の変化、血色の変化も持っています。我々は日中に職場で仕事をし、夜になると疲れて家に帰って来ます。その為、夕方から夜にかけての我々の肌は血の気を失っています。しかし深い眠りの後の肌は——睡眠によって得られた新たな若々しい生命力によって——赤みを帯びています。このように、真皮の上部に張り巡らされた毛細血管の見出される層に我々は、リズム的な変化を繰り返す律動系の組織を見出すことが出来るのです。

こうして我々は、神経感覚系・代謝系・律動系という人間組織の三つの要素を、皮膚という組織の中にも見出すことが出来ました。詰まり我々は、皮膚組織という「部分」に人体という「全体」の反映を見出したのです。そして我々は、このような考え方に基づいてアトピー性皮膚炎の本質に迫ってみたいと思います。


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  • 2 胸が熱くなる、胸が痛む、胸が一杯になる、胸が躍る、胸を焦がす、胸が裂ける、胸が騒ぐ、胸がすく、胸がつかえる、胸が潰れそう、胸が詰まるなど、日本語に於いても感情の居場所が胸であるという表現には枚挙に遑が無い。換言するならば、脳を中心とする神経系の組織に感情の機能が有るとする考え方は、近代的な生理学の産物に過ぎない。 
  • 3 角化細胞は角質成分を含み成熟するに従ってセラミドなどの脂肪分を細胞外に放出する。

リューダー・ヤッヘンス医学博士(皮膚科医)
1951年ドイツ・ブレーメン生まれ。キールとゲッティンゲンの大学で医学を専攻し、卒業後、1984年から皮膚科医師としての活動を開始。1992年に南ドイツ・アルゴイ地方のシュティーフェンホーフェンにクリストフォールス診療所を設立。1993年からアントロポゾフィー皮膚科学会を主宰。スイス・アーレムハイムの癌専門病院ルーカス・クリニックでの医学ゼミナールやドイツ・シュトゥットゥガルト近郊の総合病院フィルダー・クリニック、そしてWELEDAWALAといった製薬会社などにおいて、ヤッヘンス氏は指導的立場にあり、診療所が休診である週末の殆どが、各地での講演やゼミナールで埋め尽くされている。地元ヴァンゲンのアントロポゾフィー協会では精神科学自由大学の分野などで重要な課題を担っている。
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