2013年6月15日土曜日

『牛乳の質と牛の角』:リューダー・ヤッヘンス医学博士


文:リューダー・ヤッヘンス 医学博士(皮膚科医)|Dr.Lueder Jachens
訳:竹下哲生|Tetsuo Takeshita

医師は皮膚科、特にアレルギー関係の診察に於いて、毎日の様に牛乳の消化の問題に直面しています。それは差し当たり「子ども」に於いて特に問題になるのですが、成人に於いても稀に見られます。だからこそ端から牛乳を異質な蛋白質と見做し、それは「人間に適したものではない」から、短絡的に「摂取すべきではない」と主張する医師は少なくありません。しかし食物としての牛乳に纏わる習慣や風習、そして凝乳や乾酪などの加工の習わしという、何千年にも及ぶ古代からの伝統に目を向けるならば、そういった見解が間違いであることは明らかです。

更に言語の精神は、牛乳の価値を探し求める者にとって欠かせない方向性を示唆してくれます:先ず聖書にはイスラエルの大地や楽園を「乳と蜜の流れる土地」(出エ三章8節)と表現しています。また「敬虔なる思考習慣の乳」は正直で敬虔な、誠実な本質が際立つ人間に於いて見出されます。何れの場合も言語は牛乳を、高価で、最高度の純粋さと質を有した素材の比喩として用いています。ということは我々は牛乳を、人間にとって特別に相応しい、極めて価値のある食物と断言することが出来ます。そして、それは幼少期に於いて最も当てはまるのです。

それでは何故、これほどまでに多くの人々が牛乳の消化の問題を抱えているのでしょうか。それならば何故、例えばコップ一杯の牛乳が多くの子どもにとって、発症しつつあるアトピー性皮膚炎(遺伝された皮膚の過敏な傾向による発疹)を、僅か数時間から数日のうちに、ああも劇的に悪化させ得るのでしょうか。アトピー性皮膚炎や食物の消化の問題、取り分け牛乳の消化問題に始まり乳製品のアレルギーの問題は、第二次大戦後の数十年の間に、高度に工業化された全ての国々に於いて、急激に増加しました。

その原因を問い、そして究明するならば、異なる方面に端を発し、様々な水準(レベル)の影響が織り成す複合的な問題を目の当たりにします;医学に於いては、ひとつの病気の「多重因子的な原因」が問題になります。ですから先ず手始めに大まかに、牛乳そのものと、それを飲む人間に分けて考えることが出来るのです。


人間と社会に見出される問題

アントロポゾフィー医学の見地からは、現代を生きる人間の過敏性とアレルギー反応への傾向は、以下のような原因から増加した、と理解されています:

  • 化学的な合成物質の増加による人体への負担:近代的な科学技術と化学的な工業に由来する種々の「不自然な物質」は神に創造された自然には属さないもので、つい数百年前までこれまでは存在しなかったものです。言うまでも無く人間もまた神によって自然と共に創造された訳ですから、この「不自然な物質」は人体組織に負荷を与えているのです。
  • 人間の生命力の低下:都市生活は人間の健全な昼夜のリズムを阻害し、我々が普通に口にするものは野菜であれ肉であれ「重さ」は有っても「栄養」に乏しいものになってしまいました。こうした影響が全て、生命力の低下というかたちで現われるのです。
  • 神経感覚組織への過度な負荷:テレビやインターネットの影響は言うに及ばす、街中で何処にでも見られる広告等の電気的なメディアも、人間の感覚に不自然で過剰な刺激を与えます。このような外的な感覚への影響は人間の神経を刺激し、人体の神経組織に度を超えた負担を強いることになります。
  • 個的な人生を歩む重荷:これまでの人類は大家族、職業的な地位、村落共同体などに守り包まれて成長することが出来ました。ところが現代を生きる人間は、個性的で自由な生き方をしなければならないという要求を突き付けられている一方で、既存の「支え」を失って余りにも無防備であると言えます。こうした二重の原因が現代の人間を「生きにくく」しているのです。

化学物質の増加、生命力の低下、神経感覚組織への刺激、「個人としての人間」の課題の増加、これら全ては現代を生きる人間に課された要求と負担だと言えます。ところが実際、多くの人はこれらの過剰な負担と要求に圧倒されてしまっているのです。そして、このような本人も気付かない負担は、例えば内蔵機能の低下や実際の発病として「目に見えるかたち」になるのですが、人体組織が有する数多くの「問題の顕在化」の可能性のひとつが、消化機能の低下なのです。

消化機能が低下すると、胃や腸の消化液によって栄養素が正しく分解されず、栄養素が有している、人体組織にとっては「異物である」という特性を未だ残したままで、小腸の粘膜から血液へ至ります。栄養素の独自性を有した物質、食べ物としての「個性」を未だ完全には処理されきれていない物質、即ち部分的にしか消化されていない物質はアレルギー反応を促進します。詰まりアレルギー反応を通して「異物」は、体外に排泄されるのです。換言するならば血液の中に移行した異物は「中心から周囲に向かって作用する力」に掌握され、体の表面——詰まり皮膚——の炎症、例えばアトピー性皮膚炎、粘膜組織に花粉症として、或いは喘息として排泄されるのです。

こうして第一に牛乳の消化に問題(牛乳の不耐の問題)を抱えた人間が今日増え続けている背景と、そして第二に消化不良に伴うアレルギー反応等の諸問題(不耐を原因とする諸問題)がこれまで以上に起こり易くなっている背景に、大まかな輪郭を与えることが出来ました。


上からの力と下からの力

さて次に牛乳を食物と見做し、その質について問い掛けるならば、人間に見出される問題と同じような、様々な影響から織り成された「問題の複合体」を目の当たりにします。この問題は健全な「本来の農業」との比較に於いて明らかとなります。そして、その諸問題が最終的に牛乳の質に影響を与えているのです。以下、その中の幾つかを述べたいと思います:

  • 泌乳量偏重の飼育:自然に則した「本来の農業」とは異なり、近代的な酪農は得られる牛乳の「量」を最大化するために、様々な努力がされています。
  • 栄養価の高い飼料:泌乳量を上げるために、牧草以外にも蛋白質や熱量の豊富な飼料が与えられています。
  • 牧草の刈り入れ時期と回数:牧草の刈り入れは、これまで異常に頻繁に行われ、第一刈り入れは花と種子形成の前に行われています。
  • 過剰な施肥:牧草地や放牧地は、牧草の発育の為に過剰な施肥が行われています。
  • 搾乳後の処理:搾乳後、余りにも早く冷却処理が行われている為に、牛乳内の細菌の生息が阻害されています。

農業に於ける植物と動物の成長と繁栄には生命の力の構成に於ける特定の対極性が根本的な意味を持っていて、また食物の栄養の質にも影響を及ぼします:それは植物と動物の生命に対する「地上的な影響」と、「宇宙的な影響」の対極です。

植物は環境から、宇宙から遣って来る熱と光と空気の作用の中にあります。この諸作用は太陽の光に担われています。そして太陽の力抜きに、地上の生命は存在し得ません。これに向かい合っているのが、液体的なものと固体的なものからの作用です。この作用は大地の暗闇から植物の中へと、下から上に向かって伸びて行きます。宇宙的な諸力は花と実に、地上的な諸力は根と茎に働き掛けます。そして緑色の葉の中で両方の力が常に結びついています;このように熱と光と空気は、水と土との共同作業によって、詰まり「光合成」によって植物の体そのものを築き上げるのです。さて、この様な力の構成に於いて一方の極に偏りが生じることが、植物の成長と栄養の質にも影響を及ぼすのです。何故なら植物は人間と動物にとっては、「食物」でもあるからです。

先ず暑さや強い光、そして乾燥を通して上からの力が強まるということは、植物を香り豊かにしますが、それは強まり過ぎると辛みに繋がりますし、木質化も引き起こします。野菜は適切な収穫時期を逸すると「薹が立って」しまうと言われますが、このように植物を木のようにスカスカで堅いものにしてしまうのは、光や空気のような「上からの作用」の結果です。このような作用は強まり過ぎると植物の嵩を制限することになり、結果的には収穫量の減衰も引き起こします。逆に過剰な潅水や施肥は「下からの作用」を強め、植物の嵩を大きくする一方で保存性が悪くなり、また黴び易くもなります。


牛の角と乳房

さて宇宙的な力と地上的な力の対極は動物に於いても同様に見られるのですが、但しその力の関係性は植物の様に垂直ではなく、水平に張り詰めているのです。詰まり牛の前方には頭から胸の辺りに掛けて、周囲からの熱と光と空気が作用している一方で、後方の新陳代謝の組織全体には水と大地という、地上的な影響が作用しているのです。牛の「形姿」を全体的に見渡すならば、前方は堅い角に代表される様に細く尖っていることに気がつきます。対して後方では、丸々と太った豊かな乳房が見出されるのです。前方は尖っていて堅い≠後方は丸くて柔らかい、これは対極です。そして、この対極は捕われ無く見れば牛の形姿に於いて一目瞭然であり、同時に牛の角と牛乳の質の関係性に疑問を投げ掛けるのです。

さて、これまでに述べてきた様な形で牛の内蔵組織と周囲、即ち生活環境との関係性について考察するならば、牛の角が光の作用に対する或る種の「吸引器官」であるという考えが、それ程突飛な発想であるとは思わないでしょう。詰まり光は自らの作用を角を通して内蔵組織に及ぼし、消化組織にまで至るのです;そこに於いて光は——比喩的に表現して——いわば「庭師」として、微生物の叡智に満ちた秩序の維持に影響を与えているのです。そして、この微生物が繊維素(セルロース)の消化には欠かせないのです。消化の過程に於いて、植物性の飼料を構成要素(成分)にまで取り崩し切った時に初めて、それらの実質は動物の体に築き上げることが可能なのですが、この「築き上げる過程」の特別な行き先のひとつが、牛の乳房に於ける乳の生成なのです。

角を持つ牛乳瓶——デメター認証(*1)の牛乳は「角を持った牛」から作られている





光の質が内蔵組織へ至る道が牛の脱角に拠って阻害されていたならば、動物組織の内部に於ける光の作用もまた妨害されることになります。詰まり動物の内蔵組織に於ける「光の新陳代謝」が阻害されるのです。既に述べた様に、それは牛の消化組織、新陳代謝全体、そして乳汁形成に至るまで影響を及ぼすことが可能なのです。さて光の影響と新陳代謝の相互作用をより深く理解する為に、ここでアリストテレスによって初めて叙述された、有機的な形成過程に於ける「素材の力」と「形態の力」の対極に立ち返りたいと思います。

素材の力とは全ての「地上的なもの」の代表です。それは中心点から始まり、周囲に放射します。素材(物質)というものは常に空間を必要とし、それには「重さ」という特性が染み付いています。素材の力が牛の組織に作用するとき、新陳代謝の極から、詰まり後ろから前へと入り込んで来ます。そして乳房は——その形状と機能からも明らかな様に——素材の力に偏った臓器の典型であると言えます。逆に形態の力は周囲から中心に向かって作用します。それは素材に境界、即ち「輪郭」を与え、動物の姿を形作ります。形態の力は「宇宙的な」起源を有する熱、光、空気の作用の中に含まれています。そして神経感覚器官の極から、即ち前から後ろに向かって形態の力は牛の生体組織に作用するのです。

こういった思考的背景から牛の角を、動物的形姿に於ける「形態の力」の働き掛けの典型的な結果と見做すことが出来ます。そして牛の角を取り去ってしまうならば、それが原因で生体組織の中に形態の力と素材の力の不均衡が生じることが予想されるのです。詰まり脱角に因って形態の力の作用が弱められ、結果的に素材の力の偏重が起るということです。ですから比喩的な表現を用いて脱角された牛から得られた牛乳の質を表現するならば、それは余りにも重過ぎて、肥え太ったものなのです。何故なら、その牛乳は余り光を浴びていない生体組織の中で生成されたからです。形象を生み出す様な、これまでの研究手法は以上の様な関係性に示唆を与えるのです。

(*1) デメター(Demeter)認証:シュタイナーが提唱したバイオダイナミック農法で育てられた作物や製品に与えられる認証


栄養豊富な飼料の問題と、生理学的な証明

以上に述べられた反芻動物に於ける消化活動のイメージは、何故蛋白質とエネルギー過多の飼料が動物の病気の原因になるのかを理解可能なものにします:先ず言えることは反芻動物の消化組織は、そのような飼料には適していないということです。反芻動物の消化の力は、栄養に乏しい繊維素(セルロース)に富んだ粗飼料を処理することが出来るし、そもそも、そうしたいのです。何故なら粗飼料を消化するという重労働は、反芻動物にとって必要なことだからです。粗飼料の消化という重労働を通して反芻動物は自らを強めます。消化活動を通して牛は健康を手に入れ、農業全体が健康になり、更には人間の健康にも繋がるのです。可能な限り多くの乳を牛に出させ、可能な限り早く牛を肥え太らせようという現代に於いて支配的な農業手法は、牛の消化の力が殆ど仕事をせずに済む飼料を与えているのです。こうして牛の生体組織と牛乳には、消化組織からの物質の氾濫が生じるのです。

精神は物質無くしては不能であり、物質は精神無くしては不能であるというルドルフ・シュタイナーの表現した根本原則に倣うならば、この論説の著者は何れ生化学的な研究が角からホルモンに似た情報物質が分泌されている事実を突き止めた時に、驚きはしないでしょう。そして、その情報物質は牛の消化過程と新陳代謝を調整(制御)していて、乳汁形成にも関っているのではないかと考えることが出来るのです。言う迄もなく、このような物質は未だ発見されていません;ですから少なくとも物質的な事実を見る限りは、脱角が牛乳の質にどれだけ本質的な影響を与えているのかという疑問に答えることは出来ないのです。そのような意味に於いては、これまでに述べて来た考察は——確かに未だ——動物の生体組織に於ける力の振る舞いを特徴付ける「質的な見地」に制限せざるを得ません。

とはいえ、これまでに述べたことから、消化の弱い人やアトピー性皮膚炎やアレルギーの傾向がある人にとっての牛乳の消化の問題は、脱角に因ってその傾向を更に強めることになる、ということが充分に明らかになったのではないでしょうか。

PDFで見る(ドイツ語)
※以上の文章はドイツ/アルゴイの「角を持った牛の研究会」が2002年に発行した『牛の角は大事!』の第二巻に掲載された、原題:『食物としての牛乳』という記事の翻訳です。この文章は皮膚科医であり、アレルギー学者でもあるリューダー・ヤッヘンス氏によって書かれたものですが、主に農業従事者を対象とした書かれ方をしています。そういった背景から農業に関する言及には、翻訳に於いて原文には無い補足表現が加筆されています。また太字による強調や、読みやすさの為に配した小見出しも、原文には無いものであることを、ここに明記しておこうと思います。(訳者)

リューダー・ヤッヘンス 医学博士(皮膚科医)
1951年ドイツ・ブレーメン生まれ 17歳の時にアントロポゾフィーと出会う その後、キールとゲッティンゲンの大学で医学を専攻し、卒業後、1984年から皮膚科医師としての活動を開始 1992年に南ドイツ・アルゴイ地方のシュティーフェンホーフェンにクリストフォールス診療所を設立 1993年からアントロポゾフィー皮膚科学会を主宰 スイス・アーレムハイムの癌専門病院ルーカス・クリニックでの医学ゼミナールやドイツ・シュトゥットゥガルト近郊の総合病院フィルダー・クリニック、そしてWELEDAWALAといった製薬会社などにおいて、ヤッヘンス氏は指導的立場にあり、診療所が休診である週末の殆どが、各地での講演やゼミナールで埋め尽くされている 地元ヴァンゲンのアントロポゾフィー協会では精神科学自由大学の分野などで重要な課題を担っている
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